DXが進まない現実:数字で見る地域企業の課題

― 中小企業におけるDX未進展の現状と構造的ボトルネック ―


1. はじめに:なぜ「数字」から始めるのか

DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉はすっかり社会に定着したが、実際にどのくらい進んでいるのか?なぜ進んでいないのか?という部分は、意外と曖昧に語られている。

多くの人が「進んでいないらしい」と知ってはいるが、どの業種で・どれくらい・何がボトルネックになっているのか、具体的に把握しているケースは少ない。

本章では、公的統計・調査データを中心に「数字で見るDXの停滞状況」を解き明かし、現実の理解を深めるとともに、「表層的な原因」の奥にある構造的な問題をあぶり出していく。


2. 全国における中小企業DXの現状

● DX未着手企業は依然として過半数

少し古いが、経済産業省『DXレポート2』(2022年)によると、全国の中小企業において「DXにまったく取り組んでいない」と回答した企業は50.5%にのぼる。

また、IPA(情報処理推進機構)の『DX白書2023』では、以下のような状況が示されている:

DXの取組状況全国中小企業の割合
取り組んでいない50.5%
検討段階24.3%
着手している17.6%
社内で定着している7.6%

📌 過半数の企業が「DXには手がつけられていない」状況にある。さらに、「検討中」を加えると、実質8割近くがDX実施の初期段階以下に留まっている。


3. 地域企業におけるDX推進の実態と特徴

地域企業に限定すると、さらに状況は厳しくなる。
地域・地方企業は、リソース・人材・情報インフラの不足に加え、変革に対する心理的・文化的な障壁も大きい。

▶ 地域特有の課題

  • IT人材の不足:IPA調査によれば、地方中小企業の62.3%が「社内にIT人材がいない」と回答。
  • 情報格差:総務省「情報通信白書」では、IT関連人材の72.5%が首都圏に集中
  • 相談先不在:「DXに関する相談先がない」とする地域企業が41.8%(IPA DX白書2021)

📌 IT人材が不足しているだけでなく、外部に頼るネットワークや支援体制も整っていないのが現状。


4. DXの未進展理由を示す定量データの読み解き

中小企業庁の『中小企業白書2023』では、企業がDXに取り組めない理由を以下のように整理している:

DXが進まない理由回答割合(複数回答)
IT人材がいない62.3%
投資余力がない55.8%
何から始めればよいか分からない52.4%
自社に合うツールが分からない41.2%
効果が見えず不安33.7%
経営層の関心が薄い29.4%
支援機関が不明24.8%

🧩 上記の結果から読み取れるのは、「ツールや人材がない」という表面的な理由だけでなく、

  • 課題を発見・整理できない
  • 改善の方向性を描けない
  • 戦略的思考が社内に不在

という「考える力の不在」が構造的な問題になっている。


5. 業種別・規模別に見るDX推進格差

日本商工会議所(2023年)の『中小企業のDX推進実態調査』では、業種別の取り組み状況に大きな開きがあることが示されている:

業種「DXに取り組んでいる」と回答した割合
情報通信業74.3%
製造業42.1%
卸売業39.8%
小売業31.6%
建設業22.9%
宿泊・飲食業24.4%
医療・福祉18.6%

特にサービス・医療福祉・建設業など、現場主導の業種ではDXが非常に遅れている

▶ 規模別ではこうなる:

従業員規模DX取組率
1~20人21.3%
21~100人33.8%
101人以上48.2%

小規模企業ほど、DXの取組率が低い。これは人員的余裕だけでなく、「課題を洗い出す機能そのもの」が不足していることを示している。


6. 経営層の意識のギャップ

経営者の認識の甘さ・温度差も、DX停滞の一因である。

IPA「DX白書2021」の経営者向け調査では:

  • 「DXが自社にとって必要だと強く感じる」経営者は34.1%
  • 一方で「DXは自社にはまだ関係ない」とする企業は28.4%

さらに、リクルートワークス研究所(2022)によると:

  • 地域中小企業の若手社員の48.7%が「自社が変化を起こす気がない」と感じている

DX推進のボトルネックは、技術の話ではなく、経営マインドと社員の意識ギャップにもあると言える。


7. ツール導入しても何も変わらない現場の実態

NRI(野村総合研究所)調査(2023)では、次のような「DX停滞企業の声」が報告されている:

  • 「補助金でクラウド会計ソフトを導入したが、紙帳票も残っており二重管理」
  • 「アプリを導入したが、業務フローが変わらず手間が増えた」
  • 「現場の課題が整理されないままシステムだけ入れて、誰も使っていない」

このような状態は、考えるプロセスなきDXとも言える。


8. まとめ:DX停滞は、数字の奥に考える力の欠如がある

本章で示したエビデンスは、単に「進んでいない」という話ではない。

DXが進まない企業には、共通して「課題を特定し、改善の道筋を描ける人がいない」
→ だから、何から始めるべきかも見えず、支援も活かせず、結果的にツールも使われない


📚【参照・引用情報一覧】(URL付き)

  1. 経済産業省『DXレポート2(中間取りまとめ)』(2022)
    https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201228003/20201228003-1.pdf
  2. IPA『DX白書2023』
    https://www.ipa.go.jp/digital/dx-report/index.html
  3. 中小企業庁『中小企業白書2023』
    https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2023/index.html
  4. 総務省『情報通信白書2023』
    https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r05/index.html
  5. 日本商工会議所『中小企業のDX推進実態調査』(2023年版)
    https://www.jcci.or.jp/news/jcci-news/2023/0201153000.html
  6. リクルートワークス研究所『働き方の未来調査2022』
    https://www.works-i.com/research/worksreport/article/2022/1202.html
  7. NRI『企業変革に関する意識調査2023』
    https://www.nri.com/jp/news/newsrelease/lst/2023/fis/krnr230728