「考える人」がなぜDXに必要なのか? ― ツール導入だけでは変われない本質的な理由 ―
はじめに
「DXを進めるにはITスキルが必要だ」
「ツールを入れればデジタル化が進む」
「外部コンサルに任せればなんとかなる」
……こうした見方が多くの企業で根強いが、それらはDXの表面的な理解に過ぎない。
本記事では、「DXの本質は考える力にある」という視点から、なぜそれが必要で、どのように欠けているのかを体系的に解説する。
目次
- DXとは「考えるプロセス」である
- 「考えずにツールを入れる」と何が起こるか
- 業務改善との違い:DXには“構造を変える思考”が必要
- 「考える人材」の定義と役割
- 考える人がいない組織で起こる停滞
- まとめ:DXとは“課題発見→仮説構築→実験→改善”の連続である
1. DXとは「考えるプロセス」である
まず大前提として、DXとはただの「IT化」ではない。
経産省の定義(抜粋):
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、
データとデジタル技術を活用して、製品・サービス・ビジネスモデルを変革し、競争上の優位性を確立すること
—『DXレポート2』(経産省 2022)
つまりDXとは、
- 業務の効率化だけではなく、
- 顧客との接点・ビジネスモデル・意思決定の構造まで
- 全体のあり方そのものを問い直すこと
である。
✅ 3つのステップ(考えるプロセス)
DXの中核は、以下のような「思考プロセス」の連続にある:
- 現状の課題を発見する
└ ムダ・不便・遅れなどのボトルネックを見つける - 原因を構造的に把握する
└ 単なる現象でなく、「なぜそうなっているのか」を分析する - 新しい仕組みで再設計する
└ 仕組みを見直して、新たな方法で実装する
この一連の動きは、「考える人」なしには成立しない。
2. 「考えずにツールを入れる」と何が起こるか?
現場では「課題は分からないが、とにかくDXが必要らしいからITツールを入れた」というケースが多発している。
補助金がもらえるからという理由で・・・
ITベンダーから、もっともらしい理由を付けられて・・・・
自社に何が必要なのか検討する暇なく入れてしまうケースである。
✅ 典型的な失敗例
- クラウド勤怠ツールを導入
→ 運用ルールが曖昧で現場が混乱。結局、紙での併用が残る。 - 会計ソフトを刷新
→ 操作マニュアルが理解できず、税理士にすべて依頼。業務は属人化したまま。 - 顧客管理システムを導入
→ 営業が入力せず、データは空白。Excelでの共有が続く。
📌 これらの共通点は、「なぜそれを入れるのか」「どう使うと改善になるのか」という考察が一切なされていないことじゃ。
DXは「処方箋」ではない。まず診断が必要
病気に例えるなら、DXは処方箋ではない。
むしろ「診断→処方→投薬→経過観察」という一連の医療行為に近い。
薬を出す前に、「症状は何か?」「根本原因は?」「薬は適しているか?」を考えるのは当たり前である。
けれどもDX(IT)に関しては、そこが決定的に抜けている。
それをやるのが、「考える人」の役割なのである。
3. 業務改善とDXの違い:「構造を変える」視点が必要
ここで、「業務改善」と「DX=構造変革」について簡単に違いを記しておく。
下記の表でわかるように、DXは確かに難易度が高いのかも知れない。けれどもこの境界は曖昧であり、業務改善を繰り返すことでDX(業務改革)につながるという理解をしておけば良い。
✅ 業務改善との違いを整理
| 比較項目 | 業務改善 | DX(構造変革) |
|---|---|---|
| 対象 | 一部の作業や手順 | 業務全体/ビジネス構造 |
| 発想 | 現状の延長線 | ゼロベース再設計 |
| 主導者 | 現場担当者 | 経営と現場のブリッジ人材 |
| 目的 | 効率化・コスト削減 | 顧客価値の創出・競争優位性 |
DXは「仕組み」を見直す発想が必要
たとえば…
● 受注〜納品までのプロセスが属人化
→ 人手不足を嘆くのではなく、「業務フロー全体をどう標準化・自動化できるか?」を考える
● 顧客情報が部門ごとに分散
→ 「どうすれば組織全体でデータを一元活用できるか?」という発想に立つ
こうした構造全体への目線を持てるかどうかが、DXの成否を分ける。
4. 「考える人材」の定義と役割
では、DXにおいて「考える人」とは具体的にどのような人物か?
✅ 4つの基本的資質
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 課題発見力 | 現場の不便やムダに気づく洞察力 |
| 仮説立案力 | 「こうすれば良くなるかも」という提案を生み出す思考力 |
| 伝達力 | 周囲とビジョンや改善策を共有できる表現力 |
| 実行力 | 社内を動かし、実行に移すコミュニケーション力や行動力 |
上記を見てわかるのは、決して「ITリテラシー」が必要なわけではないということだ。
仮説立案力のところでは、ITリテラシーが必要であるが、必ずしもそこをIT人材が担う必要はない。むしろ広い視野や知識の方が重要である。
✅ 担うべき役割
繰り返すが、
- 現場と経営をつなぐブリッジ役
- DXの目的や価値を翻訳して伝える
- 失敗と改善を率先して繰り返す実験リーダー
- 組織に「考える習慣」を根づかせる火種
これは、確実に ITエンジニアやデジタル専門職ではない!
「思考・構造理解・調整」の能力が中核となる人材である。
→ ここが非常に重要だが、
現実はITスキルがない=DXが進まない
という理解がされてしまっている。
5. 考える人がいない組織で起こること
逆に、「考える人」が社内にいない、あるいはいても機能していない組織では、以下のような停滞が起こる。
よくある5つの症状
- 課題が言語化されない
→ 「なんとなく不便」が放置される - ツール導入が丸投げになる/良いカモである・・・
→ システムベンダーに任せ、現場と乖離 - 導入後の混乱が続く
→ 使いこなせず「結局手作業」の逆戻り - 現場が疲弊・離脱する
→ 誰も価値を感じず、形だけのDXごっこ/やったつもりになる - 学びと改善のサイクルが止まる
→ 「試行→失敗→改善→共有」が起きない
これらはすべて、「考える人の不在=構造的な無思考」が原因である。
6. まとめ:DXとは課題発見→仮説→試行の繰り返し
DXは「IT導入」ではなく「課題解決の繰り返し」
DXを誤って理解すると、
「いいツールを入れればうまくいく」
「IT人材がいればどうにかなる」
という他力本願になってしまう。
しかし、実際のDXとは:
● 自分たちの仕事を見直し
● 「なぜ、今のやり方なのか?」を問い直し
● 「どうすればもっと良くなるか?」を仮説として立て
● 小さく試し、結果を見て修正する
という、「自前の思考プロセス」なしには絶対に進まない営みなのである。
最も重要なのは「考える習慣」そのもの
だからこそ、DXの第一歩は、
ツール導入でも、研修でもなく、
考えてもいい空気をつくること
考えることを仕事にしていいと認めること
である。
まとめ
「考える人」がいない組織では、DXは絶対に根づかない。
逆に、「考える人」がひとりでもいれば、小さな改善から組織は確実に変わり始める。
それが、ツールよりも先に必要なことなのである。


