「考える人」がなぜDXに必要なのか? ― ツール導入だけでは変われない本質的な理由 ―

はじめに

「DXを進めるにはITスキルが必要だ」
「ツールを入れればデジタル化が進む」
「外部コンサルに任せればなんとかなる」

……こうした見方が多くの企業で根強いが、それらはDXの表面的な理解に過ぎない

本記事では、「DXの本質は考える力にある」という視点から、なぜそれが必要で、どのように欠けているのかを体系的に解説する。


目次

  1. DXとは「考えるプロセス」である
  2. 「考えずにツールを入れる」と何が起こるか
  3. 業務改善との違い:DXには“構造を変える思考”が必要
  4. 「考える人材」の定義と役割
  5. 考える人がいない組織で起こる停滞
  6. まとめ:DXとは“課題発見→仮説構築→実験→改善”の連続である

1. DXとは「考えるプロセス」である

まず大前提として、DXとはただの「IT化」ではない。

経産省の定義(抜粋):

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、
データとデジタル技術を活用して、製品・サービス・ビジネスモデルを変革し、競争上の優位性を確立すること
—『DXレポート2』(経産省 2022)

つまりDXとは、

  • 業務の効率化だけではなく、
  • 顧客との接点・ビジネスモデル・意思決定の構造まで
  • 全体のあり方そのものを問い直すこと

である。


✅ 3つのステップ(考えるプロセス)

DXの中核は、以下のような「思考プロセス」の連続にある:

  1. 現状の課題を発見する
     └ ムダ・不便・遅れなどのボトルネックを見つける
  2. 原因を構造的に把握する
     └ 単なる現象でなく、「なぜそうなっているのか」を分析する
  3. 新しい仕組みで再設計する
     └ 仕組みを見直して、新たな方法で実装する

この一連の動きは、「考える人」なしには成立しない。


2. 「考えずにツールを入れる」と何が起こるか?

現場では「課題は分からないが、とにかくDXが必要らしいからITツールを入れた」というケースが多発している。

補助金がもらえるからという理由で・・・

ITベンダーから、もっともらしい理由を付けられて・・・・

自社に何が必要なのか検討する暇なく入れてしまうケースである。

✅ 典型的な失敗例

  • クラウド勤怠ツールを導入
    → 運用ルールが曖昧で現場が混乱。結局、紙での併用が残る。
  • 会計ソフトを刷新
    → 操作マニュアルが理解できず、税理士にすべて依頼。業務は属人化したまま。
  • 顧客管理システムを導入
    → 営業が入力せず、データは空白。Excelでの共有が続く。

📌 これらの共通点は、「なぜそれを入れるのか」「どう使うと改善になるのか」という考察が一切なされていないことじゃ。


DXは「処方箋」ではない。まず診断が必要

病気に例えるなら、DXは処方箋ではない。
むしろ「診断→処方→投薬→経過観察」という一連の医療行為に近い。

薬を出す前に、「症状は何か?」「根本原因は?」「薬は適しているか?」を考えるのは当たり前である。

けれどもDX(IT)に関しては、そこが決定的に抜けている。

それをやるのが、「考える人」の役割なのである。


3. 業務改善とDXの違い:「構造を変える」視点が必要

ここで、「業務改善」と「DX=構造変革」について簡単に違いを記しておく。
下記の表でわかるように、DXは確かに難易度が高いのかも知れない。けれどもこの境界は曖昧であり、業務改善を繰り返すことでDX(業務改革)につながるという理解をしておけば良い。

✅ 業務改善との違いを整理

比較項目業務改善DX(構造変革)
対象一部の作業や手順業務全体/ビジネス構造
発想現状の延長線ゼロベース再設計
主導者現場担当者経営と現場のブリッジ人材
目的効率化・コスト削減顧客価値の創出・競争優位性

DXは「仕組み」を見直す発想が必要

たとえば…

● 受注〜納品までのプロセスが属人化
→ 人手不足を嘆くのではなく、「業務フロー全体をどう標準化・自動化できるか?」を考える

● 顧客情報が部門ごとに分散
→ 「どうすれば組織全体でデータを一元活用できるか?」という発想に立つ

こうした構造全体への目線を持てるかどうかが、DXの成否を分ける。


4. 「考える人材」の定義と役割

では、DXにおいて「考える人」とは具体的にどのような人物か?

✅ 4つの基本的資質

項目内容
課題発見力現場の不便やムダに気づく洞察力
仮説立案力「こうすれば良くなるかも」という提案を生み出す思考力
伝達力周囲とビジョンや改善策を共有できる表現力
実行力社内を動かし、実行に移すコミュニケーション力や行動力

上記を見てわかるのは、決して「ITリテラシー」が必要なわけではないということだ。
仮説立案力のところでは、ITリテラシーが必要であるが、必ずしもそこをIT人材が担う必要はない。むしろ広い視野や知識の方が重要である。

✅ 担うべき役割

繰り返すが、

  • 現場と経営をつなぐブリッジ役
  • DXの目的や価値を翻訳して伝える
  • 失敗と改善を率先して繰り返す実験リーダー
  • 組織に「考える習慣」を根づかせる火種

「思考・構造理解・調整」の能力が中核となる人材である。

→ ここが非常に重要だが、


5. 考える人がいない組織で起こること

逆に、「考える人」が社内にいない、あるいはいても機能していない組織では、以下のような停滞が起こる。

よくある5つの症状

  1. 課題が言語化されない
     → 「なんとなく不便」が放置される
  2. ツール導入が丸投げになる/良いカモである・・・
     → システムベンダーに任せ、現場と乖離
  3. 導入後の混乱が続く
     → 使いこなせず「結局手作業」の逆戻り
  4. 現場が疲弊・離脱する
     → 誰も価値を感じず、形だけのDXごっこ/やったつもりになる
  5. 学びと改善のサイクルが止まる
     → 「試行→失敗→改善→共有」が起きない

これらはすべて、「考える人の不在=構造的な無思考」が原因である。


6. まとめ:DXとは課題発見→仮説→試行の繰り返し

DXは「IT導入」ではなく「課題解決の繰り返し」

DXを誤って理解すると、
「いいツールを入れればうまくいく」
「IT人材がいればどうにかなる」
という他力本願になってしまう。

しかし、実際のDXとは:

● 自分たちの仕事を見直し
● 「なぜ、今のやり方なのか?」を問い直し
● 「どうすればもっと良くなるか?」を仮説として立て
● 小さく試し、結果を見て修正する

という、「自前の思考プロセス」なしには絶対に進まない営みなのである。


最も重要なのは「考える習慣」そのもの

だからこそ、DXの第一歩は、

ツール導入でも、研修でもなく、

考えてもいい空気をつくること

考えることを仕事にしていいと認めること

である。


まとめ

「考える人」がいない組織では、DXは絶対に根づかない。

逆に、「考える人」がひとりでもいれば、小さな改善から組織は確実に変わり始める。

それが、ツールよりも先に必要なことなのである。